花冠の聖女は王子に愛を歌う
 アルルが鞄の中から顔を出そうとしたため、リナリアは慌てて鞄の入り口を塞いで止めた。

「待ってアルル、出てはダメ! 人がいるから!!」
 リナリアたちの周りには大勢の人がいる。
 ウサギではなく魔物だとバレてしまったら、アルルは問答無用で殺されてしまう。

「落ち着きたまえ、リナリアが困っているだろう? いまこの場で魔物として処刑されることになっても良いのか? 君はリナリアに一生消えないトラウマを植え付け、泣かせることを望むのか?」

(えっ!? カミラさんはアルルが魔物だと気づいていたの!?)

 カミラの言葉で冷静になったらしく、リナリアの手を下からグイグイ押していたアルルが動きを止めた。
 少しだけ見えていた白い頭が鞄の中に引っ込む。

「賢明な判断だ。リナリアを大事にしなさい。彼女は君の運命を変える鍵になる。私から言えるのはそれだけだ」
 カミラは夜色のローブの裾を翻して歩き出した。

「待ってください、まだ聞きたいことが――」
「いま言うべきことは全て言った。焦らなくとも、私とはいずれまた会うことになるさ」
 カミラは足を止めることなく、雑踏に紛れて消えた。
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