花冠の聖女は王子に愛を歌う
   ◆   ◆   ◆

 ソルシエナの街並みは美しかった。
 街路樹や花壇の花々は鮮やかに景観を彩り、陽光を浴びて白亜の王城が白銀に煌めいている。

 しかし、やはり魔導王国と呼ばれる大国レムタナの華やかさには負ける。
 隣国を併呑したことで三本の《光の樹》を所有し、魔素《マナ》の豊富なあの国では庶民の日用品にも惜しみなく魔道具が使用されている。

 たとえばレムタナの王都の照明は全て魔道具だし、水路を流れる水は魔道具のおかげでいつも綺麗だ。

 ここフルーベルでレムタナの再現をすることは不可能。
 何故なら、この国の王宮にあった《光の樹》は二百年前に起きた王位継承権を巡る双子の王子の争いによって失われてしまったから。

「ああーっ! 見つけた、見つけましたよ、イレーネ様! フードで顔を隠してますけど、あなたイレーネ様でしょう!!」
 大通りを歩いていると、通りの一角で若い女性の声が上がった。

 そちらを見ると同時、腰に剣を佩いた黒髪の女性が半泣きで駆け寄ってきた。
 女神マナリスを象徴する太陽と葉の紋章。青と白を基調とする服装。
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