花冠の聖女は王子に愛を歌う
「聖女が民衆に混じって露店の串焼きにかぶりつくなど、とんでもありません! ご自分のお立場を考えてください! お腹が空いておられるのならば、急ぎ 『キャッスル・ソルシエナ』に戻りましょう!」

『キャッスル・ソルシエナ』はフルーベルの王侯貴族だけではなく、世界中の貴族や著名人をもてなしてきた超高級宿屋だ。

 守るべき聖女を放置してカミラはずんずん進んで行く。
 イレーネはこっそり肩を竦めた後、軽く首を傾けて白亜の王城を見上げた。

 もしもまだこの国に《光の樹》があったなら、王城に寄り添うようにして光り輝く黄金の樹を見ることができただろう。

 ――アルルです。
 迷いなく言い切ったリナリアの眼差しを思い出し、イレーネは微笑んだ。

(お手並み拝見といこうじゃないか。枯れてしまったこの国の《光の樹》を蘇らせ、悲劇の渦中にいる王子を救ってみせろ、リナリア)
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