花冠の聖女は王子に愛を歌う
 木造の階段はギシギシと不安な音を立てた。
 床板を踏み抜かないよう慎重に階段を上り、『3』と手書きで書かれた扉を開けると、簡素な狭い部屋がリナリアを出迎えた。

 塗装の剥げた茶色の壁。
 硬そうなベッドと燭台が置かれたテーブル。ヒビの入った鏡台と椅子。
 家具と呼べるものはそれしかなく、部屋はなんだか黴臭い。

 一応換気用の小さな窓はついているが、窓のすぐ外には隣家の壁がある。
 長いこと誰も触っていない証拠に、窓枠には埃が溜まっていた。もちろんリナリアも触る気にはなれない。

(うん。野宿に比べたら遥かに上等!)
 リナリアはトランクケースから手を離して部屋の鍵をかけた。

「ごめんねアルル、窮屈だったでしょう」
 鞄を鏡台の上に置き、アルルを抱き上げて床に下ろす。
 窮屈な鞄の中からようやく解放されたアルルは大きく伸びをした。

「ちょっと待ってね。夕食の準備をするわ」
 トランクケースを開け、アルル専用の皿に水を汲む。
 そして、市場で買った干し芋をちぎってアルルに渡した。
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