花冠の聖女は王子に愛を歌う

アルルの正体

 色彩豊かな石畳が敷かれた大通りに立ち並ぶ、レンガ造りの建物たち。
 パン屋、雑貨屋、果物屋、本屋、鍛冶屋。
 建物の軒下には多種多様な看板が下げられており、大勢の人が集まっている。

 着いたのがちょうどお昼時ということもあってか、ミストロークの目抜き通りは活気に溢れていた。

 露店商人からサンドイッチを買い、リナリアは半分に分けたそれを鞄に入れた。
 すかさず伸びてきた白い両前足がサンドイッチを掴む。

 リナリアはそれを見て微笑み、人々に混じって広場の噴水の縁に座った。
 春の風に吹かれながらサンドイッチを食べ終え、立ち上がって服を払い、パンくずを全て落とす。
 そして再び鞄を持ち、トランクケースを引いた。

 商人たちの呼び込みの声を聞きながら向かうのはこの街の北部。
 
 魔道具の手助けを借りて、この地方では抜群の透明度を誇るミストローク湖。
 その湖を見下ろせる小高い丘の上に、瀟洒な館が建っていた。

「……わあ……」
 あまりにも立派な――チェルミット男爵邸の三倍はある――バークレイン公爵邸を前にして、リナリアは語彙力を失くした。
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