花冠の聖女は王子に愛を歌う
(あっ)
 ソファの背もたれに隠れて見えなかったが、エルザの斜め前、対面のソファにイスカがちょこんと座っていた。
 どうやらイスカも入浴させられていたらしく、陽を浴びた白い体毛がキラキラ輝いている。

 リナリアと目が合うと、イスカは視線を逸らした。
 ずきりと胸が痛む。

 イスカは怒っているのだろうか。
 一年も一緒に居ながら、王子だと全く気付かず、無礼な真似ばかりしてきたリナリアに。

「お座りなさい。王子、リナリアが隣に座っても構いませんわよね?」
 イスカが頷いたのを見て、リナリアはイスカの隣に座った。
 イスカとリナリアの間には人一人分の距離がある。

 それはそっくりそのままイスカの心の距離を示しているようで、悲しかった。

 エルザに勧められて、リナリアは焼き菓子を頬張り、紅茶を一口飲んだ。
 美味しいはずなのに味がしない。

「リナリアが身支度を整えている間に、王子からお話を聞きました」
 一息ついたところで、エルザが話を切り出した。
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