花冠の聖女は王子に愛を歌う
 この国の支配階級たる王侯貴族は基本的に平民より強い魔力を有するため、平民を見下す傾向にある。

 そしてリナリアは多くの平民の例に漏れず、なんの魔法も使えない凡人だった。

(……でもなあ。その『なんの魔法も使えない無能で卑しい平民風情』を孤児院から連れ出して、王子妃になれと強制したのはあなたのお父さまなのだけれど……)

 その思いは口に出さない。

 容赦のない平手打ちをされるのはご免である。
 実際に、ヴィオラの平手打ちは痛い。
 この屋敷で暮らした一年間、何度も打たれたのだから身に染みてわかっている。

 それからしばらくリナリアはヴィオラにネチネチいびられ、出立の足止めを食らったのだった。
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