花冠の聖女は王子に愛を歌う
 半分欠けた月に照らされた薔薇庭園。
 あと半月もすれば薔薇が美しく咲き乱れ、この世の楽園となるであろうその場所にイスカがいた。

 瀟洒な東屋へと続く階段。
 イスカは東屋の入口に背を向け、階段の一番上に座っていた。

 東屋の周囲をぐるりと囲むように無数の薔薇が植えられている。
 いくつか咲いているものもあるが、まだ大半が蕾だった。

「イスカ様」
 ぼうっと半分の月を見上げていたイスカは、声に反応してこちらを見た。
 そして、気まずそうに目を逸らしてしまう。

 でも、彼は逃げることなくそこに留まっていた。
 どうやら会話は許される、らしい。

「あの、……」
 言葉が続かない。どうしよう。何を言えばいいのだろう。
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