花冠の聖女は王子に愛を歌う
「その。昼間は、はしたない言葉遣いをしてしまって申し訳ございませんでした」
 いくら腹が立ったとはいえ、クソみたいな話ですね、などと、とんでもないことを言ってしまった。
 もしチェルミット男爵邸のマナー講師に聞かれていたら、恐らく彼女は卒倒している。

「それと、その……王子様と気づかず、数々の無礼を働いてしまって、本当に……」
 口ごもる。謝って済む話ではない。首が何度飛んでもおかしくない。
 腹の前で何度も手を組み替え、意味もなく右手の親指で左手の親指を押していると、イスカが階段を下りてきた。

 リナリアは地面に跪き、罰が下される時を待った。

 ――ぽんぽん。

(えっ)
 肉球のついた前足で足を軽く叩かれ、リナリアは驚いた。

「……怒ってないんですか?」
 イスカはこくこくと頷いた。
 リナリアを見上げ、何やら懸命に両前足を振る。
 伝えたいことがあるらしいが、彼は言葉が話せない。

 伝えたい言葉があっても伝えられない。
 それはどれほど、もどかしく、辛いことだろう。

 一年もの長い間、彼はその苦しみに苛まれ続けていたのだ。

 小さな両前足を一生懸命振り回す彼を見ていると、自然と涙が出てきた。

 イスカが驚いたように動きを止め、首を傾げた。
 どうしたんだ? 大丈夫か? そう言っているような気がする。

 泣いては駄目だ。彼を困らせてしまう。泣きたいのは彼のほうだ。
 自分にいくら言い聞かせても、涙が勝手に溢れてくる。
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