花冠の聖女は王子に愛を歌う
「……イスカ様。私、イスカ様の現状が悔しいです……」

 二百年の王家に双子が生まれ、玉座を巡る争いの末に双子の弟は《光の樹》を切り倒した。

 その報いとして、双子の一族郎党は根絶やしにされた。彼らに近い血縁者はもうこの世に存在しない。
 イスカは後の王家に生まれただけ。全く無関係の他人だ。

 それなのに、王家の双子は不吉だからと名前を奪われ、魔物としてここにいる。
 こんな理不尽が許されて良いのだろうか。

「《光の樹》を切り倒したのは二百年も前に生きていた王子でしょう? イスカ様に一体何の罪があると言うのですか? 二百年前に時を戻せたら、私は教会に乗り込んで、あんな誓約書を作った聖女たちを一人残らず殴ってやりたいっ。ただ王家に生まれた、それだけの理由で十三歳の子どもに殺し合いを強いるなんて、そんな馬鹿げた話がありますか? それが聖女のやることですか? 彼女たちのどこが聖女なんですか? 彼女たちには優しさも慈愛の心も、何もない。ただ特別な力を持っただけの暴君。無情で冷酷な、人でなしです」

 嗚咽する。
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