花冠の聖女は王子に愛を歌う
「誓約書にサインをした国王も許せませんっ。マナリスの加護がなければ国が滅ぶ? だったら潔く滅べば良かったんですよ! そしたら、少なくとも、イスカ様はこんな目に遭わなかった! 名無し(イスカ)ではなく、ご両親がきちんと考えた良い名前を与えられて、誰の目を憚ることもなく、セレン様と仲良く幸せに暮らすことができたはずなのに! 王妃様の無念はいかばかりか! 愛しい我が子二人の成長を誰よりも傍で見守りたかったはずなのに! 二百年前の王子が、二百年前の聖女が、ふざけた誓約書が! 幸せを全部ぶち壊した!!」

 他国ならば双子の王子を産んだ王妃は褒め称えられ、国母として盤石の地位を手に入れることができただろうに、この国では違う。

 双子の王子を産んだ彼女は周囲に責め立てられ、王宮での立場を失った。
 誓約書から逃れるために――殺し合いを避けるために、命がけで産んだ息子二人のうち、弟はその存在を隠された。

 彼女の嘆きと心痛は察するに余りある。

 彼女は出産から一年も経たないうちに亡くなったと聞くが、死の原因は過度のストレスによるものに違いない。
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