花冠の聖女は王子に愛を歌う
「私は悔しいっ。悔しくて腹立たしくて、堪らない。なんで私には何もできないんだろう。なんで私は無力なの。力が欲しい。現状をひっくり返す力。イスカ様を助けられる力が……」
 ひくっ、としゃくりあげる。

 みっともない。これではただの駄々っ子だ。
 月が欲しいと泣く子どもと変わらない。
 わかっているのに、どうしても涙が溢れて止まらないのだ。

 イスカは二本足で立ち、リナリアを見つめている。
 静かに、じっと――真摯な眼差しで。
 多少冷静さを取り戻し、リナリアは袖口で目元を拭った。

「……申し訳ございません。見苦しい姿を見せてしまいました」
 地面に跪いたまま頭を下げる。

「イスカ様は何度も私を助けてくださいました。今度は私がイスカ様をお助けしたいのに、なんの力もなくて……ごめんなさい」
 謝ると、イスカは頭を振った。それも、いつになく激しく。

「? どうされましたか?」
 イスカはリナリアの膝に飛び乗ってきた。
 次にリナリアの肩に飛び移り、背伸びして、ちゅ、と。
 鼻でリナリアの額にキスをした。
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