花冠の聖女は王子に愛を歌う
「…………」
 リナリアはびっくりしてイスカを見つめた。
 至近距離にいるイスカは、ぽんぽん、とリナリアの頬を肉球で叩いた。

「……泣くなと仰りたいのですか?」
 尋ねると、イスカは頷いた。

「わかりました。泣きません」
 もう一度目元を擦って、リナリアはそっとイスカを抱き上げた。
 向こうから寄ってきたのだから、抱き上げても大丈夫。だと思いたい。

(肩の上は不安定で危ないし)
 誰にともなく言い訳しながら階段を上って東屋へ移動し、イスカを円形テーブルの上に乗せた。
 リナリアは椅子を引き、イスカと向かい合う形で座る。

「イスカ様」
 ふわり、と不意に吹きつけた夜風がリナリアの髪を揺らした。
 イスカの真っ白な体毛も気持ちよさそうにふわふわと揺れている。
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