花冠の聖女は王子に愛を歌う

聖女の覚醒

 それから三日後の昼下がり、バークレイン公爵邸ではちょっとした騒ぎが起きていた。

「客室に逃げたわ! 捕まえて!!」 
「「はいっ、お嬢様!!」」
 虫取り網や籠を持ったメイドたちが一階の客室に突撃していく。
 遅れて到着すると、明るい陽光が差し込む豪奢な客室の中には逃げ回るイスカがいた。

 メイドの中には魔法を使って捕獲しようとしている者もいるのだが、イスカは本棚を蹴り、空中で身体を捻り、壁を蹴って宙を飛び、さらにまた壁を蹴って高く飛び、次々と自分に向かって飛んでくる籠や網や魔法を回避している。

 実に素晴らしい反射神経と運動能力だ。リナリアは胸中で唸った。サーカスに入れば脚光を浴びられるのではないだろうか。そんなことを考えて、不敬だと打ち消す。

「あらあらまあまあ」
 縦横無尽に部屋を駆け、とにかくひたすら逃げ回るイスカを見て、ヴィネッタは苦笑している。

「そこですっ!」
 イスカめがけてメイドが虫取り網を振り下ろす。
 それをイスカが間一髪で回避した結果、虫取り網に当たって花瓶が倒れ、床に落ちた。
 哀れな音を立てて花瓶が割れ、花と水がカーペットに散らばる。
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