花冠の聖女は王子に愛を歌う
「ああもう、イスカ様!! どうしてそのように逃げ回るのですか!! 我がバークレイン家はこの度あなたのために全力を尽くしました! お父様はご多忙の中、時間を割いて超一流の解呪魔法の使い手を探し出し! お兄様は休暇を取り、わざわざ長距離転移魔法で連れてきてくださったのですよ!? 解呪の準備はすっかり整っています! あとはあなたが魔法陣の中に入るだけだというのに、一体何が不満だというのです!? まさか一生、魔物の姿のままでいたいと仰るの!?」

 ガシャーン。パリーン!
 盛大に部屋中を引っ掻き回され――いや、物を壊しているのはイスカではなく、メイドたちが振り回す籠や魔法のせいなのだが――苛立ったようにエルザが叫ぶ。

 彼女が今日着ているのは華やかな黄色のドレスだ。
 大胆に開いたデコルテに添えられたレースがなんとも美しく、胸元では涙滴型の宝石が煌いている。

 自宅にいながら着飾っているのはイスカのためだろう。公爵令嬢としての矜持だ。

「これはこれは。派手にやってるなあ」
 部屋の入り口からひょこっと姿を現したのは、イザーク・バークレイン。二十二歳。
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