花冠の聖女は王子に愛を歌う
 イスカの呪いが解けるまで、女性陣は居間で待機することになった。
 イザークが解呪魔法の使い手と共に別室に残ったのは、万が一の事故に対応するためだ。彼は魔導士ではなく魔導『師』の称号を持つ魔法の専門家。魔法に関して、これほど心強い人間はいない。

(いつ呪いが解けるのかしら)
 ヴィネッタとエルザの向かいのソファに座り、リナリアはそわそわしていた。

 テーブルには紅茶やお菓子が用意されているが、手を付ける気になれない。
 エルザはイスカの人間時の姿を知っている――正確には想像がつくらしい。

 フルーベル王国には、嫁入り前の淑女を貴婦人の元で花嫁修業させる風習がある。
 三年前、当時十五歳だったエルザは王宮に上がり、第二王妃ロアンヌに仕えたそうだ。

 三か月が経ち、王宮勤めにも慣れた頃。
 皆が寝静まった深夜、寝付けず散歩していたエルザは王宮の庭園で世にも美しい少年を見たのだと言う。
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