花冠の聖女は王子に愛を歌う
 夕食を終え、約束通りにリナリアは大広間で歌った。
 大広間にはバークレイン一家はもちろん、住み込みで働くメイドや庭師たちも集まった。

 久しぶりに大勢の前で歌を披露することになり、緊張しながら歌ったのだが、観衆の反応は劇的だった。

 口と目を丸くする者、感極まって泣き出す者。
 目を閉じて聞き入る者、歌に合わせて無言で身体を揺らす者。

 歌い終わったリナリアは拍手の洪水に包まれ、リクエストに応じてそのまま三曲ほど歌うことになった。

 ヴィネッタはリナリアの両手を握り締め、涙ながらに絶賛。
 イザークは「いますぐ歌劇場へ行くべきだ。どんな歌い手も君の前では羞恥に跪くだろう」と興奮気味に言った。

 使用人たちもリナリアを褒め称えてくれた。
 中には「公爵邸に勤めていて良かった、あなたの歌が聞けて良かった」と言ってくれた者もいた。

 全員から讃えられて、リナリアはもちろん嬉しかった。
 過剰ともいえる誉め言葉に何度も頭を下げた。

 でも、やはり。
 歌いながら強く『開け』と念じていたにも関わらず、大広間の花瓶に飾られた花の蕾が開くことはなく――その事実に落胆したのだった。
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