花冠の聖女は王子に愛を歌う
「どうぞ」
 イザークはリナリアに席を譲って立ち上がった。

「いえ、お二人の会話を邪魔するつもりは……」
「俺は空気が読める男なんだよ」
 ぱちんとウィンクして、イザークは退室した。
 扉が閉まる音。

「……お邪魔でしたか?」
「いや。堂々巡りの不毛な会話だったからな。気にすることはねえよ。座れ」
 それが素らしく口調を変えて、イスカが着席を促した。

「失礼します」
 リナリアはイスカの向かいに座った。
 ソファの座面にはまだイザークの温もりが残っている。

 シャンデリアの明かりがイスカの整った顔に陰影を与えている。
 彼の顔には疲れがあった。疲れたような……諦めたような。失望したような。
 とにかく、あまり良くない感情だ。

「……イザーク様にまたお願いされていたのですか?」
「まあな。でもやっぱり駄目だとさ。当たり前だろうな。一国の王子を王宮から連れ出せなんて、自分で言ってて無茶だと思うよ」
 右手で額を押さえて、イスカは苦く笑った。
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