花冠の聖女は王子に愛を歌う
「…………」
 リナリアの歌が終わり、バークレイン一家を居間に集めたイスカが頭を下げてまで頼んだことはこうだ――『セレンを王宮から連れ出して保護してほしい』。

 それが無理難題なのはリナリアにもわかる。

 発覚すれば一族の首が飛ぶと知りながら、王子の誘拐に手を貸す者は誰もいないだろう。

 でも、なりふり構っていられないイスカの気持ちも痛いほどわかる。

 国王は国中から歌姫を募り、第二王子ウィルフレッドの妃選考会を開いた。

 公言こそしていないが、国王がウィルフレッドを王太子にし、セレンを切り捨てるつもりなのは明白だった。

 近いうちにセレンは病死を装って殺されるだろう。政務に耐えられないほど病弱で、金ばかり食う王子を生かしていたところで王宮には何の利益もない。

 か弱い命の炎が悪意ある誰かに吹き消されてしまう前に、イスカはなんとしてでも兄を助け出そうとしていた。

「……バークレイン家の協力を取りつけることができなければ……イスカ様はどうされるのですか?」
「三日経っても無理だったら、おれ一人で王宮に行ってセレンを攫う」
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