花冠の聖女は王子に愛を歌う
 まるで別れの言葉のようなことを言うものだから、リナリアの目に涙が浮かんだ。

「どうした。なんで泣くんだ」
 戸惑ったようにイスカが言う。

「……ごめんなさい、イスカ様。私が《花冠の聖女》でなくて」
 皆から《花冠の聖女》であることを期待されたのに。

 違うと否定しつつも、そんな器ではないと謙遜しながらも、リナリアも心の奥底で、ほんの少しだけ、自分に期待していたのに。

 リナリアの歌では花瓶の花を咲かせることはできなかった。
 部屋に戻って改めてみても、身体のどこかに《光の花》の紋章が浮かび上がっていることもなかった。

「もし私が《花冠の聖女》だったら、枯れたこの国の神樹を蘇らせることができたかもしれないのに……」

 神樹を蘇らせることができれば、二百年前の罪は許されたとして、この国の王家に双子の男児が生まれても問題はなくなる。

 イスカは誰の目を気にすることもなく、セレンと笑い合い、太陽の下で堂々と胸を張って生きることができるのに。

 リナリアでは駄目だった。
 リナリアはただ歌が上手いだけの少女でしかなかった。

(歌が上手いだけでは意味がないのに――)
 リナリアがイスカの力になることはできなかった。
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