サハラ砂漠でお茶を

或る夜の出来事 美由視点


 直接の表現はありませんが、性的なシーンがあります。

◇◇◇

 元カレの萱間とは、当然体の関係もあった。
 というよりも、それがない状態で「高校時代のモトカノとの間に子供ができたから、別れてほしい」と言われていたら、むしろこっちの関係は何だったのかと再検証しなければならない。
 知り合ってすぐならまだしも、5年付き合った相手だもの。そりゃ、やることはやってますよ。

 当たり前のように避妊していたし、たまたま私との間には子供ができなかったけれど、もし私も「妊娠している」と言ったら、萱間はどう決断したのだろう。やっぱり「死なれちゃ寝覚めが悪い」とかいって、向こうについたかな。
 なら、妊娠はともかくとして、「あなたに捨てられたら私も死ぬ!」といっていたら?

 私には多分それは言えない。
 情熱が足りないというより、そういう手を使うのは趣味に合わないのだ。
 それを「その程度しか思いがなかった」と言われるなら、甘んじて受けよう。

 「その程度しか好きじゃないんでしょ」が、なぜか人を非難する言葉になり、「あなたを思う気持ちは誰にも負けない」という言葉が最高の愛の告白になるような価値観を、正直私は理解できないのだ。

◇◇◇

 それとは無関係に、ここ最近の私にとって、萱間は既に過去の男だった。

 今の私は創さんに恋している。

 私よりずっと大人で、恋も結婚も経験のある人で、私のことは常連客か店子仲間程度にしか思っていないことは知っている。

 私は汚い。
 萱間とのみっともない場面を見られ、開き直ったのかもしれない。

 どさくさまぎれに創さんに「抱いてくれ」と頼んだ。
 創さんは優しいので、からかうようなことを言って私を落ち着かせようとした――のだと思うけれど、それさえ利用した。

 悪くしたことに、創さんに抱かれ、もっと好きになってしまった。

 朝目覚めたとき、優しくほほに唇を落とされたら、軽くのびた無精ひげが当たり、ちくっとするのが心地よかった。
 大きな手で優しく愛撫されて、「死んでもいい」と思うほど幸せだった。
「一回でいい」と言ったけれど、まずい…ここのところ失いかけていた気持ちが芽生えたのかもしれない。

 すなわち、「男性としてのあの人が欲しい」的なアレだ。
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