君が嘘に消えてしまう前に


結局、瀬川くんのおかげでレッスンにはギリギリ間に合った。
その後はいつも通り一時間に渡って先生の指導を受けて、一週間ぶりに満足にピアノを弾く。

基本的に、家でピアノを弾くことは許されない。

小学生の頃までは別に何も言われなかったけれど、私が中学校に入学したあたりからいい目で見られなくなった。

そのうち、ピアノを弾いていると楽譜を閉じられ、強制的に蓋を閉められるようになった。


『どうしてピアノを弾いちゃいけないの?』


中一の時、母に一度そう尋ねた。

今年受験のお姉ちゃんの勉強の妨げになったら大変だからと母は答えたけれど、きっとそれは本心でなかったのだと思う。

だって母が私のピアノを止めるのは、お姉ちゃんがいなくても同じだから。


私の存在が疎ましく目障りな母からすれば、私の弾くピアノさえも耳障りだったのかもしれない。

それでもピアノのレッスンだけは辞めたくないと、必死に両親に縋った。

母は私の成績が姉に及ばないのを理由に辞めさせようとしたけれど、結局は父が別に続けさせればいいと言ったことで収まった。

それから、家ではほとんどピアノに触っていない。


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