君が嘘に消えてしまう前に
翌朝。
昨日夜遅くまで数学の問題集を解いたせいで眠たい目をこすりながら、いつもと同じ時間の電車に乗り込む。
多くの生徒が登校に使う電車より一本早いから、同じ高校の制服を着た生徒の姿はまばらだ。
重い足取りで高校への坂道を一歩一歩上っていく。
右手には女子高生には不似合いな大き目の紺色の傘。
昨日瀬川くんに借りた傘、返さなきゃな…。
このあと自分から人に話しかけないといけないと思うと、今日はいつにもまして憂鬱な気分だ。
昇降口付近にある傘立てに瀬川くんの傘をさし、階段を上っていく。
いつものように人気のない教室に足を踏み入れ、薄暗い教室の電気をつける。
普段なら、このまま必要な荷物をもって図書室に勉強しに行くところだけど。
…今日は、瀬川くんが現れるのを待とう。
ただでさえ人の目が怖いうえに、相手はあの瀬川くんなのだ。
なるべく人に話しているところを見られたくないし、それなら話しかけるタイミングは人の少ない朝いちばんが一番いい。
瀬川くんが来たら、挨拶して、お礼を言って、傘を傘立てに戻したことを伝える。
これからすべきことを頭の中で反芻すると気が重くなってくる。
何か他のことで気を紛らわせようと英単語帳をひらいても、単語が頭に入ってこない。