君が嘘に消えてしまう前に


落ち着かない気持ちで過ごしていると、廊下から足音が聞こえてきた。

…もしかして。

がらら、っと小さく音を立ててゆっくりと教室の扉があく。空いたドアから、こげ茶色の髪がのぞいた。


「――おはよう、朝から教室にいるなんて珍しいね」


やっぱり、瀬川くんだ。

珍しく教室にいる私を見って一瞬彼が驚いた顔をする。

けどそれはほんの一瞬のことで、瀬川くんはすぐに表情を取り繕っていつもの笑みで笑いかけた。


「…おはよう。昨日は傘ありがとう、本当に助かった」


隣の机に荷物を下ろしている瀬川くんに視線を向け、ぺこりと頭を下げる。
愛想も笑顔もないわたしにできる、最大電の感謝の伝え方がこれだった。


「全然、時間大丈夫だった?」


わたしの固すぎるお礼を気にした風もなく、瀬川くんはさらりとそう言った。
…相変わらず、人ができすぎてるなあ。


「うん、おかげでなんとか間に合ったよ…借りた傘は傘立てに立てといたから」

「了解。わざわざ伝えてくれてありがとね」

瀬川くんには私がこの話をするために教室にいたこともお見通しだったみたいで。
さわやかにそう言って、笑顔を向けられた。

お互いにそれ以上の会話を進めようという気は起きなかったらしい。
私は英単語帳に、瀬川くんはブックカバー付きの本に目を落としながら時間がたつのを待った。
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