君が嘘に消えてしまう前に
時計の針が進むのが遅くて、たった五分間が酷く息苦しかった。
ようやく5分経って、瀬川くんが改めて立候補者がいないか問いかける。
「私、パートリーダーならやってもいいよ!あ、美香も一緒ならだけど!」
「えー…朱莉がそう言うならやろっかなぁ…」
一番に手を挙げたのは、クラスでも中心のグループに所属する高田さんだ。
その石田さんから名前の上がった杉浦さんの方は、しょうがないなぁ、と言うように頷いて笑っている。
パッと拍手が起こって一斉に二人を取り巻いた。
「じゃあ俺もパートリーダー立候補しよっかな」
「お、松本やんの?なら俺もやってもいいかも」
「女子のパートリーダー私もやる!…ちょっとでもみんなの役に立ちたいし…」
「じゃあ私も!」
…内申点のため、性格の良さをアピールするため、注目されたいから。
多分思惑は様々だけど、大抵はそういう理由からの立候補だろうな。
クラスカースト上位勢が、パートリーダーの枠を埋めていく。
ほんと、彼女たちは立ち回りが上手い。
役職名はあって、普通の子よりは信頼を得れて、それでいて責任者や指揮者、伴奏者ほどの責任はない。
何にもする気のない私の勝手な言い分だけど、いいとこ取りの役職だよなぁと思ってしまう。
こういうとこ、我ながらつくづく性格悪い。
「あー…じゃあパートリーダーはこれで決定でいいかな。…責任者とか指揮者とか伴奏者とか出てくれると助かるんだけど」
参ったな…と額を押さえるその仕草でさえも瀬川くんは絵になった。
パートリーダーができった後の教室は、静まり返っている。
「―――瀬川がやればいいんじゃね?」
そう言ったのは一体誰だったんだろうか。
次の瞬間には誰が言ったかなんて関係なくなって、一斉にクラス中がその発言にのっかった。
自分に回って来て欲しくないからと、一気に瀬川に風向きが変わる。
「それいいじゃん!ナイス名案!」
「瀬川なら責任者とか余裕だろ」
「えー、私瀬川くんの指揮めっちゃ見たい!」
「というか瀬川って確かピアノやってたよな?伴奏いけるんじゃねぇの?」
一気に押し寄せる言葉に、まるで弾丸みたいだなと人ごとのように思う。
実際人ごとなんだけど、それでもあんまりだ。
そんな風にクラス中から言われたら、大抵の人は逃げられないじゃないか。
私だったらきっと、教室の隅で小さくなって何も言えなくなってしまうんだろう。