君が嘘に消えてしまう前に

悲惨なピアノ

その週の、金曜日の朝。

結局、あの月曜日の放課後に図書室で声をかけられて以来、瀬川くんは一切伴奏の話に触れてこなかった。

隣の席で、どことなく気まずい雰囲気でたまに当たり障りのない会話をして。
瀬川くんは常にあの綺麗な作り物の笑顔を浮かべていた。


…伴奏者は見つかったのかな。


金曜日の今日に至るまで、責任者をしてくれる人は立候補者がいた。

よく瀬川くんと一緒にいる、サッカー部の快活な感じの永峰くんという男子だ。
たぶん、瀬川くんが声をかけたんだろう。


けど指揮者や伴奏者が出たという話は聞いていない。


このまま今日も誰も立候補がいなかったら…、おそらく、瀬川くんは伴奏者を押しつけられる。



分かってる、そんなのおかしいって。

…でも、あの日。
私は瀬川くんの頼みに、どうしても頷けなかった。

自分が傷つくのが怖くて、逃げた。
私も、瀬川くんに押し付けた。


(本当に、ごめん)



心の中で謝るだけで行動に移せない自分の不甲斐なさを痛感しながら、私はそっと瀬川くんの笑顔から顔を背けた。


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