君が嘘に消えてしまう前に
好奇心に駆られて、少しだけ足音を潜めて音楽室への階段を上っていく。
一体誰が、何のために弾いてるんだろうか?
膨らむ疑問もそのままに、目的地へ急ぐ。
ようやく音楽室のある三階に着く。
走ったわけでもないのに少し息が切れがして、階段を登り切ったところで一度深呼吸して立ち止まる。
ここまで来れば、歩みを止めたのもあってピアノの音は随分と聞こえるようになった。
ペダルを踏んで音を響かないようにはしてるみたいだけど、くぐもった音は廊下にまで溢れてる。
(ひどい…なに、これ)
音楽室の扉から漏れる和音の音は、鍵盤を押し間違えたのか濁っている。
そして途切れ途切れな、まるっきり初心者みたいな演奏。
距離があるから途切れ途切れにしか聞こえないんじゃなかった。
本当に演奏自体がぶつ切れなんだ。
(これ、なんか聞き覚えがあるような…)
かすかにそのピアノの和音に聞き覚えがあると思ったのは、ついさっきまで歌っていて耳に残っていたから。
原型の聞き取れない演奏の中で、その和音の構成には思い当たる節があって。
特徴的で、哀愁漂う独特な和音の順。
たぶん、私たちのクラス合唱曲の伴奏。
ざわざわと胸騒ぎがして、居ても立ってもいられなくなる。
どくどくと早鐘を打つ心臓に急き立てられるみたいに、音楽室に向かって小走りで急ぐ。
音楽室に続く廊下の、たった数十メートルさえもどかしくて。
こんなこと言う人のこと信じてなかったけど、本当に時間がとてつもなく長く感じられた。