君が嘘に消えてしまう前に
音楽室の一歩手前で歩を止め、手を膝について肩で大きく息をする。
この先に誰がいるのか、不思議とわかる気がした。
ふっと目を閉じて、それから思い切って視線を中に向ける。
「……ッ!」
ガラス戸から覗き込んで、予想していたのに思いっきり息を呑む。
長く細い指に、ピンと伸びた背筋。
ピアノの鍵盤を睨むその顔はただただ真剣な表情にも受け取れて、…でも見方を変えれば、それは酷く苦しそうでもあった。
だって聞き覚えがあったのは、私のクラスの合唱曲だ。
そんなの、練習する人なんて…今のところ、一人しかいない。
…やっぱり、ここでピアノを弾いていたのは。
「…瀬川くん」
口が勝手にその苗字をかたどった。