君が嘘に消えてしまう前に

なんとか涙を止め、泣き腫らした目で視線を上げれば瀬川くんは気まずそうにこめかみを押さえている。

当然だ、聞かれたくなかっただろう独り言を聞いて、勝手に彼のピアノを聴いて。挙句に突然本人の前で大号泣したんだから。




「…取り敢えず、入って。この状況を人に見られると困るから」



眉を下げ、疲れた顔で…それでも笑顔をつくる瀬川くんの言葉に、こくりと頷く。

そのままぐいと手首を掴まれて、上手く足が動かないままの私は、半ば引きずられる形で音楽室に足を踏み入れた。



音楽室の中はなかなかの有り様だった。

楽譜と思われるプリントが何枚も床に散乱し、ピアノのカバーは床に落ちている。

カーテンは締め切られていて、薄暗い。

こんな視界の悪い中でピアノを弾いてたなんて、信じられないってくらいの光景。


「音楽室に何か忘れたの?」


瀬川くんの言葉で、ハッと思考が引き戻される。

そうだ、教科書。
さっきまでの衝撃ですっかり忘れていた。

こくり、と無言で頷き小走りで自分が座っていた席の机の中を覗き込む。

机の奥には、私の名前が書かれた教科書がひっそりと置かれていた。
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