君が嘘に消えてしまう前に
「あー…、いや…うん、そうだよな」
やらかした…と大きく息をついて、瀬川くんは髪を乱し項垂れた。
普段とはかけ離れたその振る舞いに、理解が追いつかない。
…これが、あの笑顔の裏に隠してた瀬川くんの素?
項垂れたまま黙り込んでしまった瀬川くんに戸惑う。
一体、なんて言葉をかけたらいい?
なんて言うのが正解?
分からない。
だって、こういうときの正解を、学校の勉強は教えてくれない。
言葉を探して黙り込むうちに、いよいよ気まずい空気が流れる。
ーー気まずい、逃げたい。
そんな思いばかりが先行して、私はぎゅっと音楽の教科書を握りしめた。
遠くから聞こえる運動部の掛け声が、やけに空々しく聞こえてくる。
ぼんやりとカーテンの閉まった窓の方を見ていた瀬川くんはふぅ、と大きく息をついて、それから私に真っ直ぐに視線を向けた。
「…もうバレたって確信したから言うけど、あれが俺の素顔。教室では優等生演じてるだけ」
顔を上げた瀬川くんは、どこか吹っ切れたような表情でそう言い切った。
あまりに呆気ないカミングアウトに目を瞬く。
「…なんで、言ったの?」
だって、このまま有耶無耶にしてなかったことにすることだってできたはずなのに。
確かに、聞かれた相手によっては口止めとかをしなきゃいけないかもしれない。
けど、今回聞かれた相手は私だ。
教室でいつも一人孤立している、私なのだ。
話す相手もいないから、口止めも何も必要ないはず。
それに万一私が誰かにこのことを話したって、みんな瀬川くんの方を信じるに決まってる。