君が嘘に消えてしまう前に
教室が喧騒に包まれているなか、その合間を縫ってなんとか新しい自分の席へとたどり着く。
山積みの教科書を机の中にしまい、カバンを机の横にかける。
不意に担任が「お前ら、早く新しい席につけー」と声を張った。
全く新しい座席に座る気配のない生徒たちに痺れを切らしたのかもしれない。
担任の声に渋々移動を開始したクラスメートたちを傍目に、私は窓の方へと視線を投げた。
窓ガラスをつたう雫をなんとなく眺めて、それからその奥に広がる空を見上げる。
代わり映えのしない重苦しい灰色がどこまでも延々と続いていて、激しい雨のせいで周りの住宅も、山も、全てが霞んで見えた。
はあ、と今日何度目かも分からないため息をついた拍子に、窓の外からピントがずれて窓に映る自分の顔が目に入る。
水滴のついた窓からこちらを伺う鋭い目つきに、胸の辺りまで伸ばした真っ黒でくせのつかない髪、色白を通り越して青白いといわれる肌。
他人を寄せ付けないような雰囲気をまとった、いかにも不機嫌そうな少女。
機嫌が悪いわけでも怒っているわけでもないのに、睨んでいるように見える少し吊り上がり気味の目。
この目が自分の容姿の中で飛び抜けて嫌いだった。
ただでさえ人から怖がられる見た目をしているのに愛想もないんだから、我ながら救いようがない。
いよいよ大多数のクラスメートが目的の席にたどり着くのを見計らって、机の中からそっと文庫本を取り出す。
さして興味のない子難しげな心理学の本を開いて、誰にも話しかけられないように外の世界を遮断し、自分の世界に閉じこもる。
下手に話して嫌われ疎まれるくらいなら、初めからいないものとして扱われる方がずっとましだ。
それが去年一年過ごした中で私がたどり着いた結論だったし、…こうするしか自分を守る方法を私は知らなかった。