君が嘘に消えてしまう前に
「で、誰に代わんの?」
誰かが何気なく言った言葉に、心臓がどくどくとうるさくなる。
どういう目で見られるんだろう。
やっぱり疎まれるんだろうか。
だって、みんなからしたら、私は瀬川の伴奏を聞く機会を奪った邪魔者だから。
「…それは、篠宮さんに。ピアノ弾けるって聞いて、俺が無理言ったんだ」
瀬川くんが言い終わらないうちに、ばっ、とみんなが振り返った。
一斉に視線が刺さって、居た堪れない。
視線が、怖い。
どんなふうに思われているのか、想像するだけで寒気がした。
教室の隅で、固まる。
あぁ、なんて情けないんだろう。
瀬川くんにあんな風に言って引き受けておいて、教室に入ると途端に何も言えなくなってしまう。
そんな弱いくせに強がる自分が、嫌い。
「え、篠宮さんってピアノ弾けるんだ。意外」
「そういえば去年もやってたっけ?」
「なんで今更代わったんだろ、なら最初から出てくれればいいのに」
「あ〜…私瀬川くんの演奏聴きたかったな〜」
聴こえる声全てに耳を塞ぎたくなる。
この教室に私を望む声はどこにもない。
なんなら存在さえ見てない。
…やっぱり私はただの邪魔者なんだ。
分かってたことじゃないか。
そんな事で傷ついてたらきりが無いって、自分が分かってるくせに。
それでも私は、性懲りも無く傷ついてしまうのだ。
…そんな何気ない言葉に傷つくなんて、それこそ惨めなだけだって知ってるのに。