君が嘘に消えてしまう前に
「それから、」
そんな教室の雰囲気を断ち切るように、瀬川くんの声がした。
クラス中の視線がまたそっちに向いて、それだけでずっと息がしやすくなる。
ドクドクと嫌に脈打つ心臓を押さえながら、私も耳をそちらに傾ける。
「俺だけ役職から逃げる違うと思って、…指揮者は俺がやることになった。
…受け入れてもらえると、ありがたい」
一瞬教室中が静まり返って、それからわっと歓声が上がった。
頭を深く下げた瀬川くんを、クラス中の拍手が取り囲む。
「さっすが瀬川!責任感あるな!」
「やっぱり優等生は違うね」
みんな私のことなんて、もう少しも興味無いみたいに瀬川くんを絶賛している。
まあいいか、と私も拍手を贈った。
…拍手の渦の中心にいる瀬川くんに向かって。
どこか遠いところを見るような気持ちで、その情景を一歩引いて眺める。
今日だけは私も当事者のはずなのに、全然そんな気がしなくて。
何処まで行っても、クラスで起こることはまるで他人事みたい。
自嘲的な笑みを浮かべて、また視線を外に投げる。