君が嘘に消えてしまう前に
結局ショートホームルーム以降瀬川くんに話しかけられることはなくて、『ごめん』の意味は分からずじまいだった。


瀬川くんが話すつもりないなら、聞かないほうがいいよね。


そう思って、そのままその話題に触れないまま時間が流れていった。



「篠宮さん、集合場所って新棟のほうの音楽室だったよね?」


七限目の英語の授業が終わった後、今日は掃除も割り当てられていないからと、
そそくさとカバンに教科書類を詰めていたところにいきなり瀬川くんから声をかけられる。


「…うん、そのはずだけど」


突然のことに戸惑いながらも返事をする。
自分の声がぎこちないのが分かった。



「じゃあ、行こうか」



え、と自分でも驚くほど掠れた声が漏れた。


明らかに自分に向けられたその言葉に、思わず硬直する。

すぐに様子のおかしい私に気づいたのだろう。

彼は不思議そうに首を傾げて、それから思いついたように「ああ」とつぶやいた。


「もしかして用事でもあった?」


ーー違う、そうじゃなくて。

一瞬一緒に行くことを気まずく思っていることに気づいてくれたのかと思ったけど、そうではなかった。

当然だ。
瀬川くんにとってはきっと、自分と歩くことをためらう人のほうが珍しいだろうし。


「…いや、ないけど」


渋々その後に続いて廊下に出る。
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