君が嘘に消えてしまう前に
そのまま二人で廊下を歩いていく。

私と瀬川くんの間には、付かず離れずの距離が空いたままだ。

廊下を歩く生徒たちの視線が刺さっているようで、怖い。

自意識過剰だって分かってるけど、なんであんな奴が瀬川くんと歩いてるんだって思われてるようでひどく息苦しかった。


ーー瀬川くんが無理に話を振ってこなくてよかった。


そう思っていたのに、集合場所である音楽室が近くなって人気がなくなると、瀬川くんはこちらを振り返った。



「…ごめん、怒ってる?」

「え?」


怒ってる?私が?

思ってもみなかった言葉と突然の謝罪に、理解が追い付かなくて思考が止まる。


意味が分からなくて黙って彼に視線を返す。


「…指揮者、自分がやることになったからさ。もう俺の裏の顔知ってるのに申し訳ないな、と思って」


「…怒ってなんかないよ、……でも、なんで、とは思ってる」


「…それは――、」



「瀬川、篠宮さん。急ごう、もう他クラスのやつら行ってるらしい」

不意に割り込んだ声に、彼の声がかき消される。

後ろからかけてきた永峰くんは、そういうと瀬川くんの背を押して「ほら、早く」と私たちを急かした。

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