君が嘘に消えてしまう前に
「よっしゃ、瀬川と席近いじゃん!よろしくな、“優等生“」
私の斜め前の席に荷物を降ろし、底抜けに明るい声でそういったのは、クラスで一番のお調子者の広野くんだ。
いつも冗談と軽口ばかり言っていて、よく言えばムードメーカーで…悪く言えば少しうるさい、私の苦手とするタイプの人間。
でも、彼だけならまだよかった、耐えられた。
苦手なクラスメートではあるけれど、あちらから話しかけてくることはほとんどないし関わらなければ済む話だから。
でも、“優等生”である彼は違う。
「――ははっ、亮太が前の席か。騒がしくなりそうだな」
「なんだと!」
笑い声を滲ませ、人当たりの良い笑顔を浮かべてそう返したのは、予想通りの人物だった。
瀬川誠―――容姿端麗、文武両道。なんでもそつなくこなすクラス委員。
同級生だけでなく先輩や先生からも人望が厚く、その上それらを鼻にかけることもしないし、常に笑顔でみんなに好かれる…私とは正反対の人気者。
私には勉強くらいしか取り柄がないのに、彼は他にもたくさんの私にないものを持っていて、その上その勉強でさえ勝てない。
まさに神様が二物も三物も与えたような、絵に描いたみたいな優等生。
そして、私がこのクラスで最も苦手とする人物。
多分、彼のことが苦手なんてクラスで私くらいじゃないかな、と思う。
それくらい瀬川くんは完璧で、…完璧だからこそ、わたしは彼のことが怖かった。