君が嘘に消えてしまう前に
ーーーあった。
私のクラスの練習の割り当て場所は北棟の音楽室と、新棟の吹奏楽部の部室。
練習できるのは二日に一度。
各日五時から、または六時からの一時間が練習できる時間だった。
「プリントのスケジュールに書いてあるのは、各クラス全体練が始まるまで、つまり指揮者と伴奏者のみの練習の期間の割り当てです。
全体練習時の割り当てについては、また後日担任の先生に渡しておきますので確認してください。」
とりあえず去年と同じように全体練が始まるまでは二日に一度、一時間は練習できる。
それだけあれば、あの楽譜の感じだと…たぶん形にはなるだろう。
去年は伴奏をすることになったときにはほとんど全部弾けていたから良かったけど、今年はまだ一枚目がやっと。
ーーー計画的に練習しなきゃ。
…たとえ、一人でも。
「原則、伴奏者だけが練習している、という事態が起こらないようにしてください。
基本的には指揮者も練習に参加し、曲の理解を深めたり、指揮の練習をしたりするように。
ただし、部活動が忙しいなど事情がある場合は、絶対に参加しなければいけないというわけではありません。」
音楽教師の含みのある言い方に、一年生たちが顔を見合わせている。
そう。
表向きは全体練までの練習は伴奏者と指揮者でやるものってことになっているけど。
…実際は、伴奏者が一人で練習していることがほとんど。
去年もそうだった。
指揮者を引き受けてくれた男子は、初めの数回は練習に顔を出してくれたけどすぐに来なくなった。
周りのクラスの指揮者が練習に参加してないことに気付いたのか。
それとも、私と二人きりの気まずい空気に耐えられなかったのか。
おそらく後者だと思うけど、それで去年はほとんど一人で寂しく練習していた。