君が嘘に消えてしまう前に
「では、今日の集まりはこれで終わりです。各クラス一丸となって、一体感のある良い合唱を作り上げてくださいね」



音楽教師のにこやかな声で解散が言い渡され、音楽室からぱらぱらと人が席を立って出ていく。


『クラスで一丸になって』か。

クラスで団結するための合唱祭のせいで、去年うちのクラスがどうなったかこの教師は知らないんだろうなぁ。

そんなふうに教師の言葉に内心呆れながら、私も瀬川くんと永峰くんが立ち上がるのに続く。


「瀬川は全体練前もちゃんと練習行くのか?」


廊下で私の一歩前を歩く二人の会話が聞こえる。

何気ない調子で瀬川くんに問いかけられたその言葉に、反射的に足が止まりかけた。


伴奏メインの練習になんて、来るわけないじゃん。


指揮者が来てもすることはないし、わざわざ時間を取られることに付き合う物好きなんてそういない。


それくらい私だって理解してる。

だから、『行くわけないだろ』って返事が返ってくるだろうって、耳をすませた。


「ーー行くに決まってるだろ、当然」


…え?

さらりと瀬川くんから返された言葉は、私の思っていたものではなかった。


「けどお前、部活は?今から次の大会のレギュラー決めだろ」


「…自主練でなんとかするよ。涼太こそレギュラー争ってるライバルなのに、俺の心配だなんて余裕だな」


「お前なぁ、そんなん全力のお前に勝ちたいから言ってんだよ」


冗談めかした瀬川くんの言葉に、永峰くんが少しムキになって言い返す。

普段教室にいるときよりも自然な感情が出ているような気がして、不思議な気持ちだった。


「…とりあえず、しばらくは合唱祭の方の練習に行くから。篠宮さんが邪魔だと思うようならまた考えるけど」


そう言った瀬川くんは不意にこっちを振り返った。

「ね?」と同意を求められて、曖昧な頷きを返す。


「…練習にいてくれるのは全然構わないけど……。
部活の方優先してもいいのに」


「ありがとう。じゃあ、本当にまずくなったら部活に行かせてもらうよ」


そう言ってさらりと笑ってみせる瀬川くんに、それ以上は言えなくて。
私は小さく「ありがとう」と呟いた。

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