君が嘘に消えてしまう前に
放課後の音楽室
知らない瀬川くん
翌日の放課後、音楽室の練習が割り当てられていたため私は音楽室に来ていた。
家ではお母さんがいる間はピアノを弾くことができないため、放課後音楽室が使える日は数少ない練習できる機会なのだ。
「…別に、今日練習付き合ってくれなくても良かったのに」
ぱさり、とピアノのカバーを外しながら、独り言みたいにそう呟く。
その言葉の先にいるのは、指揮者である瀬川くんだ。
昨日の言葉通り、瀬川くんは律儀に放課後の練習に来てくれていた。
瀬川くんは私みたいに帰宅部じゃなくて、サッカー部。
しかも昨日の話だと、これからレギュラー選抜が行われていくらしい。
…こんな風に放課後の時間を割いてもらって本当にいいのかな。
たぶん、そんな私の戸惑いが表情に出ていたんだろう。
瀬川くんはこっちを見て少し口を尖らせた。
「俺が来たくて来てるだけだから。…邪魔なら、帰るけど」
「そういうわけじゃない、けど…来てもらっても本当にする事ないよ」
邪魔、という言葉に勢いよく言い返したは良いものの、自分のピアノの現状を思い出して声が萎んでいく。
私の伴奏はこの前から何も進歩してない。
…当然だ、家ではほとんど練習できないから。
つまり指揮と合わせられる状態では全くないのだ。
「…いいよ、別にそれでも」
そう言うと、瀬川は音楽室の前の方の席に腰を下ろして頬杖をついた。
金曜日の放課後とは違ってカーテンの開け放たれた窓から、柔らかな風が吹き込んでくる。
雨続きの中珍しく顔を出した青空が、眩しい。
すとんとピアノ椅子に座って楽譜を広げる。
よし、まずは昨日弾いたところから。
時間は限られてるし、少しでも完璧に弾けるところを増やさなきゃ。