君が嘘に消えてしまう前に
その日の放課後。

少し遅れて音楽室に来た瀬川と何度か指揮と伴奏を合わせた。

瀬川の指揮はちゃんとこっちに合わせようとしてくれるものだから、去年よりもずっと弾きやすい。



「というか、明日からだな。合唱も合わせての全体練習」


練習がひと段落して少し休憩をはさんでいるときに、隣で瀬川が思い出したようにそうつぶやいた。

その言葉に、わたしの心臓が大きく鳴った。

「…そう、だね」

少しぎこちなくなる口調を自覚しながら、あいまいに頷き返す。


…いよいよ明日から全員の前でピアノを弾くことになる。


そう考えた途端、一年前の記憶がよぎった。


―――やっぱり、怖い。


「菜乃花?」


心配げな瀬川の声で意識が引き戻される。


「…ちょっと緊張しちゃって」


何でもない風を装ってそういったけれど、瀬川の顔は険しいままだった。

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