君が嘘に消えてしまう前に
七限のホームルームが終わって、部活に入っていない私はみんなが着替えや準備を急ぐ中、淡々とした足どりで教室を出る。
窓の外では相変わらず雨が降り続けていて、ガラスを雨が打ちつけてる。
雨はさっきよりも随分と強くなっていた。
朝は晴れていたのに、梅雨の天気って本当に気紛れだ。
確か天気予報でも、今日の降水確率はそんなに高くなかったはずなのに。
「…あ」
まずい。
よく考えたら、傘を持ってきてない。
朝、晴れていたから降らないだろうと思って、折りたたみ傘さえ置いてきたのだ。
ほんと、何でよりによって今日なんだろう。
朝の自分の選択を振り返って、廊下に大きくため息をこぼした。大きなため息を気に留める人はいなくて、それはすぐに喧騒の中に溶けて消えていく。
これが水曜日じゃなかったら別に良かった。
雨が降っていたとしても、教室で勉強したり図書室で時間を潰して、雨が止んだり弱くなったりするのを待てばいい。
でも今日は不運にも週に一度のピアノのレッスンがあるから、放課後はすぐに学校を出なければ間に合わない。
どうしよう、このままじゃレッスンに遅れてしまう。
焦りが募るばかりで、ちっとも解決策は見つからない。
もっと雨が弱かったら駅まで走る手もあるけど、生憎今日の雨はそんな気力をなくさせるほどの土砂降りだ。
傘があっても濡れるのを覚悟するくらいだから、身一つで走って行くなんて到底無理だった。
友達と呼べる人のいない私には傘を借りるあてもないし、学校では傘の貸し出しはしていない。
どうしようかと迷いながら、進む時計に急かされ昇降口までとりあえず降りる。
結局私は、昇降口の手前にある柱のそばで突っ立っていることしか出来なかった。
一刻でも早く雨が弱まれば、と叶いそうにもない事を思いながら。