ジュエリー

04.Diamond






「麗子さん」


「うん」


「知ってます?今日でちょうど2年」


「あら。もうそんなに経つのね」


「今月で、"コジツケ誕生石の旅"も終わりやと思うと……ちょと寂しいっすね」


「なんだかんだ、充実していたわ」


「ほんま。めっっちゃ楽しかった。
次、何にします?」


「…………次?」


「誕生花を巡る、"ヘリクツ花言葉の旅"?
あ、星座もありますよね。
"ムリヤリ星言葉の旅"とかは?」


「……成長ないわね」


「ええんです。いつまでも変わらない俺。
目指せピーター・パン」


「付き合い切れないわよ。流石に」


「えぇ……ウェンディ……」


「……そんなことより。
最後は結局、ここなのね」


「そう。なんやかんや、うちの店が一番落ち着くかなって」


「否定できないわ」


「さて。ラストカクテルはコレです。
結構すぐ決まったんすよ」


「綺麗な白……少し濁ってて、逆に。お名前は?」


「"ホワイト・リリー"。白百合、ですよ。
"ダイヤモンド"の『純潔』に、これ以上ないくらいピッタリでしょ」


「……勝手に手をかけ始めているじゃない。花言葉」


「いやー、図らずも"ゴリオシ花言葉の旅"の先駆けですね」


「"ヘリクツ"やなかったん。……あ」


「あ」


「…………」


「久しぶり。いや、おかえり?麗子さん。
やっぱ無理してたんでしょ」


「……もう、好きに言えばいいわ」


「あ、戻ってもた」


「いただきます」
 

「それ、結構度数ありますよ。
ゆっくりいってくださいね」


「そうね。うっかり滑り出ると困るものね、色々と」


「え。そんなら、もうちょい足しましょか。アルコール」


「残念だわ。ここへ来るのも、今日限りになりそう」


「えぇ!?い、いやいや。もちろん冗談ですよ?
だからそんなん言わんといて」


「ふふ」


「……ずっと言おうか迷ってたんですけど。
麗子さん、よう笑ってくれるようになりましたよね」


「……そう?」


「そうっすよ。だって最初の1年間、見たことなかったですもん。笑顔なんて」


「気が緩みすぎてしまったようね」


「いやー。嬉しいのと、
可愛いから俺以外には見せんといてって気持ちが半々」


「……君は随分、あっけらかんになったね」


「そりゃね。最初は遠慮してたんすよ。
麗子さんの未練、十分わかってたし。
わー。なんかもう、懐かしいな」


「……『恋人とはどう?』」


「うっわ。それも懐かしっ。
定期的に聞かれましたよね。絶対わかってんのに」


「知りたかったの。君の目が、覚めているかどうか」


「最初からずっと覚めてんすよ、こっちは」


「……あの頃あんなに(こだわ)っていたことも、思い出せなくなるものね。
『女は上書き保存』……少しオーバーな気はするけど、的を得ていると思うわ」


「俺は、今でもたまに思い出しますよ。
唐突に『結婚する』とだけ聞かされた時に受けた、衝撃と絶望感。
結局、どっちが悪いニュースやったんですか」


「忘れたわ」


「頑なに教えてくれんの、なんでなん」


「いいじゃない。過去のことよ。
君、言ったでしょ。『人の心は移ろう』って」


「うーん。それ、自分で言うといてなんやけど……
勿論、移ろわない時もある!!」


「…………」


「……そんな冷めた目で見んでもええやん。
やって、現に俺の気持ちはあの時から変わってな……
いや。もっと強まったから、やっぱ変わってんかな?」


「……それは素晴らしいことね」


「麗子さんは?
……はじめて笑ってくれたあの日から、お変わりなく?」


「そうね…………」


「………………」


「たしかに…………変わった、わね」


「ど……どんな風に……?」


「『期待』が、なくなったわ」


「え…………それ、どういう……
し、失望した……ってこと……?」


「………………」


「…………え。無言、コワイ」


「やっぱり、やめようかな」


「……えぇ!?
いやいや、それほんま犯罪級やから!!
最後まで言うてください」


「……上手く言えないわよ、私」


「そんなん分かりきってますよ。
2年も一緒におるんやもん。
とゆか、どんなこと言われても今よりマシやわ」


「そう…………」


「うん」


「だから……期待、が変わって…………」


「う、うん……」


「…………確信…………いえ、願望?」


「えーっと…………つまり?」


「つまり…………」


「………………」



「私は、瞬のそばに居たいってこと」



「……………………え?」


「……わかった?」


「え。ちょっ、待って……追いつかんねんけど。
…………どっからそうなったんですか」


「だから言ったじゃない。上手くないって」


「いやいや。そういう次元とちゃいますよ。
明らか飛んでるもん、話」


「私の中では繋がってるの」


「えぇ…………。
……それが麗子さんの精一杯ってこと?
これは、思った以上に…………」


「…………何よ、その満面の笑み」


「ヘタやなぁ」


「…………やっぱり、言うんじゃなかった」


「はは。だって………………
あー……幸せって、こういうことなん?
なんかもう、嬉しいとか通り越してさあ…………」


「何」


「しにそう」


「それは……………………困るけど」


「俺さ、諦め悪くて良かった。
麗子さんを好きになって、ほんまに良かったです」


「……ありがとう」


「麗子さん」


「はい」


「耳についたスピネルも、
首にかかったペリドットも、勿論似合ってるけど。
絶対、それ以上に似合うと思うから……」


「………………」


「指には、これつけてほしい。
しばらくの間、ね」


「……………………なんでピッタリなの。
サイズ、教えてないのに」


「あぁ、それは聞かんほうがいいですよ」


「……ダイヤよ?失敗とか、怖くないの?」


「え、そんなん考えてませんでした。
まあ……もし失敗しても、
もう一度、何度でも言いますよ」


「………………」


「俺と、結婚してくれますか?」


「……………………喜んで」


「あ。麗子さん、顔赤い」


「……そう?
やっぱり、少し強かったみたいね。アルコール」


「そういうことにしときます」


「…………」


「俺……麗子さんと出会ってなかったら、
一生こんなシーン迎えてなかったと思う」


「もう。大袈裟なのよ、いつも」


「だって、ほんまのことなんやもん」


「瞬、」
「麗子さん、」



「幸せをくれて、ありがとう」
「幸せをくれて、ありがとう」



「…………同時」


「はは。ちょっとだけ似てきてるよね、俺ら」


「ほんと……いつの間にこんな、毒されていたのかしら」


「まだまだ足りんっすよ。もっと蝕んであげますわ」


「大丈夫。その前に逃げるから」


「え。絶対ダメです。それは。
ところで……無事、埋まりました?空いてた宝箱」


「おかげさまで。蓋が閉まらないくらいには」


「よかった。
さて、次は花瓶かぁ。366本分必要ですよ」


「……もう、あきないんやけど」



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