ジュエリー
04.Diamond
◇
「麗子さん」
「うん」
「知ってます?今日でちょうど2年」
「あら。もうそんなに経つのね」
「今月で、"コジツケ誕生石の旅"も終わりやと思うと……ちょと寂しいっすね」
「なんだかんだ、充実していたわ」
「ほんま。めっっちゃ楽しかった。
次、何にします?」
「…………次?」
「誕生花を巡る、"ヘリクツ花言葉の旅"?
あ、星座もありますよね。
"ムリヤリ星言葉の旅"とかは?」
「……成長ないわね」
「ええんです。いつまでも変わらない俺。
目指せピーター・パン」
「付き合い切れないわよ。流石に」
「えぇ……ウェンディ……」
「……そんなことより。
最後は結局、ここなのね」
「そう。なんやかんや、うちの店が一番落ち着くかなって」
「否定できないわ」
「さて。ラストカクテルはコレです。
結構すぐ決まったんすよ」
「綺麗な白……少し濁ってて、逆に。お名前は?」
「"ホワイト・リリー"。白百合、ですよ。
"ダイヤモンド"の『純潔』に、これ以上ないくらいピッタリでしょ」
「……勝手に手をかけ始めているじゃない。花言葉」
「いやー、図らずも"ゴリオシ花言葉の旅"の先駆けですね」
「"ヘリクツ"やなかったん。……あ」
「あ」
「…………」
「久しぶり。いや、おかえり?麗子さん。
やっぱ無理してたんでしょ」
「……もう、好きに言えばいいわ」
「あ、戻ってもた」
「いただきます」
「それ、結構度数ありますよ。
ゆっくりいってくださいね」
「そうね。うっかり滑り出ると困るものね、色々と」
「え。そんなら、もうちょい足しましょか。アルコール」
「残念だわ。ここへ来るのも、今日限りになりそう」
「えぇ!?い、いやいや。もちろん冗談ですよ?
だからそんなん言わんといて」
「ふふ」
「……ずっと言おうか迷ってたんですけど。
麗子さん、よう笑ってくれるようになりましたよね」
「……そう?」
「そうっすよ。だって最初の1年間、見たことなかったですもん。笑顔なんて」
「気が緩みすぎてしまったようね」
「いやー。嬉しいのと、
可愛いから俺以外には見せんといてって気持ちが半々」
「……君は随分、あっけらかんになったね」
「そりゃね。最初は遠慮してたんすよ。
麗子さんの未練、十分わかってたし。
わー。なんかもう、懐かしいな」
「……『恋人とはどう?』」
「うっわ。それも懐かしっ。
定期的に聞かれましたよね。絶対わかってんのに」
「知りたかったの。君の目が、覚めているかどうか」
「最初からずっと覚めてんすよ、こっちは」
「……あの頃あんなに拘っていたことも、思い出せなくなるものね。
『女は上書き保存』……少しオーバーな気はするけど、的を得ていると思うわ」
「俺は、今でもたまに思い出しますよ。
唐突に『結婚する』とだけ聞かされた時に受けた、衝撃と絶望感。
結局、どっちが悪いニュースやったんですか」
「忘れたわ」
「頑なに教えてくれんの、なんでなん」
「いいじゃない。過去のことよ。
君、言ったでしょ。『人の心は移ろう』って」
「うーん。それ、自分で言うといてなんやけど……
勿論、移ろわない時もある!!」
「…………」
「……そんな冷めた目で見んでもええやん。
やって、現に俺の気持ちはあの時から変わってな……
いや。もっと強まったから、やっぱ変わってんかな?」
「……それは素晴らしいことね」
「麗子さんは?
……はじめて笑ってくれたあの日から、お変わりなく?」
「そうね…………」
「………………」
「たしかに…………変わった、わね」
「ど……どんな風に……?」
「『期待』が、なくなったわ」
「え…………それ、どういう……
し、失望した……ってこと……?」
「………………」
「…………え。無言、コワイ」
「やっぱり、やめようかな」
「……えぇ!?
いやいや、それほんま犯罪級やから!!
最後まで言うてください」
「……上手く言えないわよ、私」
「そんなん分かりきってますよ。
2年も一緒におるんやもん。
とゆか、どんなこと言われても今よりマシやわ」
「そう…………」
「うん」
「だから……期待、が変わって…………」
「う、うん……」
「…………確信…………いえ、願望?」
「えーっと…………つまり?」
「つまり…………」
「………………」
「私は、瞬のそばに居たいってこと」
「……………………え?」
「……わかった?」
「え。ちょっ、待って……追いつかんねんけど。
…………どっからそうなったんですか」
「だから言ったじゃない。上手くないって」
「いやいや。そういう次元とちゃいますよ。
明らか飛んでるもん、話」
「私の中では繋がってるの」
「えぇ…………。
……それが麗子さんの精一杯ってこと?
これは、思った以上に…………」
「…………何よ、その満面の笑み」
「ヘタやなぁ」
「…………やっぱり、言うんじゃなかった」
「はは。だって………………
あー……幸せって、こういうことなん?
なんかもう、嬉しいとか通り越してさあ…………」
「何」
「しにそう」
「それは……………………困るけど」
「俺さ、諦め悪くて良かった。
麗子さんを好きになって、ほんまに良かったです」
「……ありがとう」
「麗子さん」
「はい」
「耳についたスピネルも、
首にかかったペリドットも、勿論似合ってるけど。
絶対、それ以上に似合うと思うから……」
「………………」
「指には、これつけてほしい。
しばらくの間、ね」
「……………………なんでピッタリなの。
サイズ、教えてないのに」
「あぁ、それは聞かんほうがいいですよ」
「……ダイヤよ?失敗とか、怖くないの?」
「え、そんなん考えてませんでした。
まあ……もし失敗しても、
もう一度、何度でも言いますよ」
「………………」
「俺と、結婚してくれますか?」
「……………………喜んで」
「あ。麗子さん、顔赤い」
「……そう?
やっぱり、少し強かったみたいね。アルコール」
「そういうことにしときます」
「…………」
「俺……麗子さんと出会ってなかったら、
一生こんなシーン迎えてなかったと思う」
「もう。大袈裟なのよ、いつも」
「だって、ほんまのことなんやもん」
「瞬、」
「麗子さん、」
「幸せをくれて、ありがとう」
「幸せをくれて、ありがとう」
「…………同時」
「はは。ちょっとだけ似てきてるよね、俺ら」
「ほんと……いつの間にこんな、毒されていたのかしら」
「まだまだ足りんっすよ。もっと蝕んであげますわ」
「大丈夫。その前に逃げるから」
「え。絶対ダメです。それは。
ところで……無事、埋まりました?空いてた宝箱」
「おかげさまで。蓋が閉まらないくらいには」
「よかった。
さて、次は花瓶かぁ。366本分必要ですよ」
「……もう、あきないんやけど」
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