ジュエリー
08.Peridot
◇
「麗子さんつきましたよ。
長い間乗らしてもて、すんません」
「いえ、運転ありがとう」
「やべ。ちょっと急ぎますけど、ヒール大丈夫ですか?」
「まあ、うん」
「あ、今更なんですけど……高所恐怖症やないですよね?」
「そうね。むしろ高いところは好きよ」
「よかった、ほな行きましょ!」
「……一体何をしようというの?
日没後の遊園地へ来て」
「アレ、乗ってもらいたいんです。俺と一緒に」
「アレ……って」
「観覧車!!」
「……すごい行列ね」
「えっ?
うわ、ほんまや!!はよいかな逃してまう!」
「あんなにお利口にまわってるゴンドラが、
私たちを置いて逃げるなんて思えないけど」
「まあまあ、すぐわかりますよ。はよ行きましょ!」
「いつにも増して騒々しいわね」
「当たり前やん。麗子さんの誕生日やしっ」
「本人より楽しんでどうするのよ」
「麗子さんにも『楽しかった』って言わせてみせますよ、絶対」
「……それにしても。
こんな時間の遊園地が人気だとは知らなかったわ」
「ちゃいますよ!今日はトクベツで……あ、来た。
足元きぃつけて乗ってくださいね」
「どうも。……それで?
ここへ来たのは、何か理由があるんでしょう」
「あー。今回は流石に気付かんか」
「……嫌な予感ならするわ」
「今月の石は、スピネルだけやなくて、"ペリドット"もでしょ?」
「そうね」
「ペリドットの和名って知ってます?」
「………まさか」
「そう! 橄欖石!
やから観覧車っす」
「……はぁ。呆れた。
下手な駄洒落にもなってないわ。
どうしてそんなに自信満々の顔をしてられるの」
「うーん。
スベるのわかっとったけど、グサグサ来るわぁ。
でも、もちろんそれだけやないですよ」
「懲りないわね」
「…………あ!音する!!」
「え?」
「わー!!ベストタイミング!
ほら見て麗子さんっ!外!」
「………………花火……」
「晴れてよかった。
ちょい遠いけど、十分見えますね」
「……このためだったのね」
「綺麗やなぁ」
「…………そうね」
「……さて。
そのまま見とってくださいね。
ほんでちょっと、うしろ失礼します……」
「…………何?くすぐったい」
「はい。ハッピーバースデー、麗子さん」
「え?
………………あ。ネックレス……?」
「うわ!めっちゃ似合ってますよ!」
「この緑……もしかして」
「そう!これはほんまのペリドット。
この石、『幸福』とかの意味も持ってるでしょ?
だから、これもお守りにしてくれるかなぁって」
「………………」
「え。な、なんで無言。
……もしかして、気に入りませんでした?
『ちっこい雫型が可愛い』って店員さんも推してくれたんやけど…………」
「いえ、違うの。
とても素敵。ありがとう。
……………………そして、ごめんなさい」
「えっ!?」
「あの日の言葉、少し訂正するわ。
やっぱり、今でも十分よ」
「……へ?」
「今でも十分、他の女の子がほっとかないと思うわ。君のこと」
「え…………あぁ、"頑張らんでも"ってこと?
せやから、そんなん興味ないんですよ。
急に謝るから、振られるんかおもって焦ったわ」
「もっと他に、良い子がいるんだから。
私なんかに、こんな……
…………構ってくれなくてもいいって意味よ」
「……ってことは。
喜んでくれたってことですよね、麗子さん」
「……どう解釈したら、その結論になるの?」
「もー。素直やないなぁ」
「悪いわね。可愛げもないのよ、私」
「いや。めっちゃ可愛いです。
麗子さんが、いっちゃん可愛いです」
「………………」
「麗子さん以外に、こんなんおもえないですよ」
「難儀ね」
「……ねえ麗子さん。
どこまでなら、許してくれますか?」
「……どこって?」
「その……手繋ぐのは、ええですか。降りるまで」
「…………降りるまででいいなら」
「あ、待って。俺も訂正。
今日はずっと……や、これからもずっと。
繋いどいてええですか」
「……もう好きにすればいいわ」
「うっわ。麗子さん、手ぇちっさ。ほんで細っ」
「…………ねえ」
「はい」
「私を想い人にしてくれてありがとう、瞬」
「ええ!?」
「……そんなに驚く必要ある?」
「だって…………うわぁ……どうしよう。
……はじめて名前呼んでもらえただけで嬉しいとか。
中学生みたいやん、俺」
「ふ。やっぱり、垢抜けないね。瞬は」
「……もー、絶対わざとやん。
心臓もたんて…………」
◆