ジュエリー

08.Peridot






「麗子さんつきましたよ。
長い間乗らしてもて、すんません」


「いえ、運転ありがとう」


「やべ。ちょっと急ぎますけど、ヒール大丈夫ですか?」


「まあ、うん」


「あ、今更なんですけど……高所恐怖症やないですよね?」


「そうね。むしろ高いところは好きよ」


「よかった、ほな行きましょ!」


「……一体何をしようというの?
日没後の遊園地へ来て」


「アレ、乗ってもらいたいんです。俺と一緒に」


「アレ……って」


「観覧車!!」


「……すごい行列ね」


「えっ?
うわ、ほんまや!!はよいかな逃してまう!」


「あんなにお利口にまわってるゴンドラが、
私たちを置いて逃げるなんて思えないけど」


「まあまあ、すぐわかりますよ。はよ行きましょ!」


「いつにも増して騒々しいわね」


「当たり前やん。麗子さんの誕生日やしっ」


「本人より楽しんでどうするのよ」


「麗子さんにも『楽しかった』って言わせてみせますよ、絶対」


「……それにしても。
こんな時間の遊園地が人気だとは知らなかったわ」


「ちゃいますよ!今日はトクベツで……あ、来た。
足元きぃつけて乗ってくださいね」


「どうも。……それで?
ここへ来たのは、何か理由があるんでしょう」


「あー。今回は流石に気付かんか」


「……嫌な予感ならするわ」


「今月の石は、スピネルだけやなくて、"ペリドット"もでしょ?」


「そうね」


「ペリドットの和名って知ってます?」


「………まさか」


「そう! 橄欖石(かんらんせき)
やから観覧車っす」


「……はぁ。呆れた。
下手な駄洒落にもなってないわ。
どうしてそんなに自信満々の顔をしてられるの」


「うーん。
スベるのわかっとったけど、グサグサ来るわぁ。
でも、もちろんそれだけやないですよ」


「懲りないわね」


「…………あ!音する!!」


「え?」


「わー!!ベストタイミング!
ほら見て麗子さんっ!外!」


「………………花火……」


「晴れてよかった。
ちょい遠いけど、十分見えますね」


「……このためだったのね」


「綺麗やなぁ」


「…………そうね」


「……さて。
そのまま見とってくださいね。
ほんでちょっと、うしろ失礼します……」


「…………何?くすぐったい」


「はい。ハッピーバースデー、麗子さん」


「え?
………………あ。ネックレス……?」


「うわ!めっちゃ似合ってますよ!」


「この緑……もしかして」


「そう!これはほんまのペリドット。
この石、『幸福』とかの意味も持ってるでしょ?
だから、これもお守りにしてくれるかなぁって」


「………………」


「え。な、なんで無言。
……もしかして、気に入りませんでした?
『ちっこい雫型が可愛い』って店員さんも推してくれたんやけど…………」


「いえ、違うの。
とても素敵。ありがとう。
……………………そして、ごめんなさい」


「えっ!?」


「あの日の言葉、少し訂正するわ。
やっぱり、今でも十分よ」


「……へ?」


「今でも十分、他の女の子がほっとかないと思うわ。君のこと」


「え…………あぁ、"頑張らんでも"ってこと?
せやから、そんなん興味ないんですよ。
急に謝るから、振られるんかおもって焦ったわ」


「もっと他に、良い子がいるんだから。
私なんかに、こんな……
…………構ってくれなくてもいいって意味よ」


「……ってことは。
喜んでくれたってことですよね、麗子さん」


「……どう解釈したら、その結論になるの?」


「もー。素直やないなぁ」


「悪いわね。可愛げもないのよ、私」


「いや。めっちゃ可愛いです。
麗子さんが、いっちゃん可愛いです」


「………………」


「麗子さん以外に、こんなんおもえないですよ」


「難儀ね」


「……ねえ麗子さん。
どこまでなら、許してくれますか?」


「……どこって?」


「その……手繋ぐのは、ええですか。降りるまで」


「…………降りるまででいいなら」


「あ、待って。俺も訂正。
今日はずっと……や、これからもずっと。
繋いどいてええですか」


「……もう好きにすればいいわ」


「うっわ。麗子さん、手ぇちっさ。ほんで細っ」


「…………ねえ」


「はい」


「私を想い人にしてくれてありがとう、瞬」


「ええ!?」


「……そんなに驚く必要ある?」


「だって…………うわぁ……どうしよう。
……はじめて名前呼んでもらえただけで嬉しいとか。
中学生みたいやん、俺」


「ふ。やっぱり、垢抜けないね。瞬は」


「……もー、絶対わざとやん。
心臓もたんて…………」




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