10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
 冬馬さんの過去に何があっても構わないと思っていたが、正直気持ち悪いと思ってしまった。
 そんな私の反応に気がついたのか、冬馬さんが私を柔らかく抱きしめてくる。

「ごめん、未来と会って初めて俺は人を好きになったんだ。それまでは、かなり女遊びが激しかったとは自分でも思う」
「女遊び⋯⋯」

 私の中で幼い頃、母に自分の父親は誰なのかを聞いた記憶が蘇った。

 父の日にお父さんの絵を描けと言われても、描けなくて辛かった。
 何を描いて良いのか分からず偽者を書くわけにもいかずに、大人しく白紙で紙を先生に出したら鼻で笑われた。
 人の悪意に初めて触れた瞬間だった。

 優しい母に対して私が反発を覚えた最初の出来事だ。
 感謝する父もいないのは母の不道徳な行動のせいだと彼女を軽蔑し始めた記憶。

『どうして、私にはお父さんがいないの?』
『未来のお父さんは家庭がある人だったの。彼にとって私は遊びだったのよ』
 私から目を逸らしながら、潤んだ瞳を隠して語った母を思い出した。

 冬馬さんは自分の罪に気がついていないように平然としている。
 私は彼のその姿にゾッとした。

< 100 / 185 >

この作品をシェア

pagetop