10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
「その玩具のように遊んでしまった女性たちには謝罪して回ったんですか?」
「玩具って⋯⋯向こうから言い寄られるのがほとんどだったし、お互いその場を楽しんで別れただけだから謝るようなことは⋯⋯」

 母の葬儀にも現れなかった父も、冬馬さんのような考え方の人だったのかもしれないと想像するだけで吐き気がした。

 私は気がつくと思いっきり冬馬さんを押していた。
 その勢いで彼が目を丸くしながら一歩後ずさる。
 
「はっきり言って、気持ち悪いです。私、冬馬さんみたいな人と一緒になるなんて絶対無理! 私だって人に誇れるような過去はありません。でも、今の冬馬さんが⋯⋯貴方の考え方が私には到底受け入れられません。私と別れてください」
 個室とはいえ病院なのに興奮して大きな声を出してしまった。

「未来⋯⋯」
 冬馬さんが恐る恐る私に手を伸ばしてくる。私は彼の手に自分の左手の薬指にはめてある指輪を外して握らせた。

「さようなら。もう2度と会うことはありません。出てってください」
 私の強い言葉に傷ついたような顔をした彼が病室の外に出ていった。
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