10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
 冬馬さんが去って私は胸の中にぽっかり穴が空いたような感覚を覚えた。
 私は本当に彼が好きだった。
 恋など穢らわしいと思っていた私が持つなんて想像もできなかったような不思議な感情だ。

「はぁ⋯うぅ⋯⋯」
 冬馬さんを追い返すと止め処もなく涙が溢れてくる。

 そんな私に江夏君がタオルを渡してきた。

「ありがとう。恥ずかしい所を見せちゃったね。さっきは、どんな過去も受け入れるような度量のある女を気取ってたのに、全然無理だったよ」

「そういうのは度量のあるって言わないよ。あれを受け入れたら都合の良い女になっちゃうよ。そうだ、癒される猫の動画でも見る? 桜田さんの家って猫飼っていたよね」
「あの子はたまに忍び込んできた野良猫だよ」
 今の私も天涯孤独の野良猫のようなものだと落ち込みながら、江夏君のスマホを受け取る。

「えっと、ロックが⋯⋯」
スマホはロックが掛かってて開かなかった。
「暗証番号は 0906だよ」
突然、江夏君が耳元で囁いてきて驚いてしまう。
(0906⋯⋯私の誕生日⋯⋯10年前、彼が私に告白して振られた日⋯⋯偶然だよね)

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