10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
 彼のヘーゼル色の瞳に映った私は明らかに困惑していた。

「ごめん、私、江夏君の気持ちには応えられない」
 命懸けで私を助けてくれた彼の告白を断るのは忍びないが、やはり受け入れる事はできなかった。

 時計を見ると19時48分で、面会時間も終わりに近づいていることに気が付く。
「江夏君、今日は私の事を助けてくれてありがとう。あと、偉そうに説教みたいな事してごめんね」

 私は立ち上がり、彼に深々と頭を下げた。
 記憶のない間、私も人に命を狙われるような悪い事をしていた。
 記憶にある過去を取り寄せても、人に説教できるような生き方もしていない。

(『お前は、本当に偉そうに正論かざしやがって!』)
 私に襲い掛かろうとした犯人の言葉を心に刻み込んだ方が良いのかもしれない。

「今から千葉の実家に帰るの? この時間だと駅からのバスがないと思うけど⋯⋯」
「歩くから、平気⋯⋯」
 40分以上も暗い夜道を歩く事を考えると怖くなった。
 また、突然見知らぬ人が包丁を持って現れるかもしれない。
(あっ、それに私、財布とスマホを入れたカバンを落としちゃったんだ⋯⋯)

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