10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
「結構、待ち時間が多くてさ。病院って予想以上に時間がかかるね」
 江夏君は予想外に寝入ってしまった私に気を遣わせないように優しい嘘をついてくれている気がした。

 江夏君の引っ越しの準備をする為にマンションに戻る。

 エントランス前まで行くと、昨日同じくらいの時間にここで見知らぬ男に刺されそうになったのを思い出した。ニュースでも住所不定無職となっていた犯人。私はなぜそのような男に恨まれるようになったのかの記憶がない。

「大丈夫?」
「全然、大丈夫だよ。江夏君こそ大丈夫? 私が引っ越しの箱詰めとかするから、横で寝ててね。江夏君は寝てないんだから、相当疲れているでしょ」

「あと2週間はあるからそんなに慌てなくても、一緒にのんびり寝転がってから動けば良いよ。桜田さんが側にいるだけで、俺は疲れを感じないんだ」
 彼は私に笑い掛けると、手を引いてマンションの中に入って行った。

 江夏君は32階に住んでいるらしい。
 32階でも中層階という括りになるのは、東京に高層の建物がいかに多いかが分かる。
 そして、タワーマンションの弊害かエレベーターがなかなか来ない。

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