10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
 エレベーターが到着する音がした。
 気がつけば、私は冬馬さんに無言で米俵のように担がれていた。

「城ヶ崎さん、やめてください! 私を誘拐するおつもりですか?」
「これみよがしに、呼び方変えて⋯⋯結構嫌な奴だなお前⋯⋯」
 彼の冷ややかな声に私は急に怖くなった。
 彼のする事は私の理解を超えていて、考えていることも全く分からない。
 秘書の方や江夏君の前では冷たい声を出していたが、私の前ではいつも優しい穏やかな声をしていた。それが、今は違う。

 あれよあれよという間に、冬馬さんの部屋まで連れて行かれる。
 明らかに強引に連れて行かれた私を防犯カメラで見たマンションの管理人が助けに来てくれる事を願った。

「あの、降ろしてください。怖いです」
 私は彼のベッドにモノのように投げつけられた。
 その乱暴な行動に震えが止まらなくなる。

 冬馬さんが私を見据えながら、シュルッと自分のネクタイを解くのが分かった。その流れるような動作に一瞬見とれていると、両腕を、そのネクタイで拘束されているのに気が付く。

「待ってください! なんで、私は縛られたんですか?」

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