10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
(『お前は、本当に偉そうに正論かざしやがって! 社会のド底辺のくせに!』)

 私を刺そうとした見知らぬ男の言葉を思い出して、私は自分も人に言うのも恥ずかしい情けない過去のある人間だと思い直し口を閉じる。

 私は客観的に見て、学歴もなく仕事もない社会のド底辺だ。
 そもそも、そんな私が自分とは真逆の社会の一握りの頂点に属する彼と結婚などできるはずがない。彼のような人は家柄の良いお嬢様と政略結婚するのが普通だ。私も初めての恋に溺れて冷静な判断ができていなかったらしい。
 
 私が彼から見て『2度と出会えないような特別な子』な部分は、彼の周りにいる恵まれた人と違い天涯孤独で死んでも誰も気づかない子という点だろう。 実際に、私が刺された事件も彼が箝口令を敷いた事により明らかになっていない。あのまま意識が戻らず私が命を失っても、私の存在がなかった事になるだけだ。

 手首に目を落とすと先程、彼にネクタイで縛られた場所がうっすらと色づいて跡になっていた。
「未来、ごめん、手首痛かったよな」
「別に、もう平気です⋯⋯」
 そっけない言葉しか口からは出てこない。

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